北國新聞 2014年12月31日 掲載

広めよう加賀料理 (39)新幹線時代へ 世界のVIPほれさせる 超A級グルメで勝負

加賀料理の調理実演に見入る「いしかわナイト」の招待客=3日夜、仏カンヌ市内

今月3日、仏カンヌで加賀料理を紹介するイベントが開かれた。石川県内の料理店、酒蔵などでつくる協議会が、石川に世界の富裕層を呼び込もうと企画した立食パーティーだ。

石川から運び込まれた食材を使った料理が振る舞われ、地酒がワイングラスに注がれる。招待されたのは、海外富裕層を顧客に持つ旅行会社の担当者たち。世界中のパーティーに顔を出し、目も舌も肥えた面々である。日本料理も食べ慣れている。そんな彼らだが、初体験の加賀料理には特別な興味を示した。

「石川の料理は一言では言い表せないほど奥深い」「欧米の富裕層は、まさにこうした上質な食を求めている」

参加者からは高い評価が寄せられ、イベント終了後、石川への視察旅行を決める会社も出始めた。

歴史に敬意

現地で調理を担当した金沢市の日本料理店「銭屋」の主人、髙木慎一朗さんは「日本料理にも、こんな料理があるんだと驚かせ、おいしいと感じさせることが大切になる」と話す。そのポイントとなるのが石川らしさ。「あそこは何か違うぞ」という地方独特の文化こそ、海外客の興味をそそるという。

特に欧州客は、文化に関心が深く、歴史あるものに敬意を払う。加賀料理は北前船交易からの歴史、加賀藩前田家の保護のもと発展した茶道、伝統工芸、芸能など文化を背景に持っている。本物の価値を好む世界の富裕層をほれさせる要素は十分あるのではないか。連載の取材を通して感じる可能性である。

近年、日本各地でB級グルメによる町おこしが盛んだ。北陸にも、金沢カレーや高岡コロッケなど庶民の味がある。しかし、この地は、超A級グルメを提供できる全国でも恵まれた土地だ。食材、器、調理技術、部屋のしつらえと、すべてに最上級を追求できるのが加賀料理である。山が高ければ、すそ野も広い。和食王国としての地域の姿、潜在力を見せることができるのではないか。

和食回帰を

もっとも、協議会が目的とするのは、海外への発信だけではない。髙木さんは「外部の評価が高まれば地元の人たちが、ふるさとの宝物に気付くことができる」と話す。

日本人は世界的な評価を受けて初めて、自国の文化に誇りを持つところがある。和食のユネスコ無形文化遺産登録の目的もそこにある。登録活動に尽力した熊倉功夫静岡文化芸術大学長は「大切なのは海外より国内。和食のすそ野が狭まれば、頂点は低くなってしまう」と日本人の和食回帰の必要性を語った。

北陸新幹線に乗って、多くの観光客が、北陸の食を求めてやってくることが期待される。海外セレブも次々訪れ、やがて世界有数の美食の街として知名度は上がり、食文化の産業が推進される。新年に向け、そんな初夢が正夢になることを願う。(森田奈々、おわり)

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